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プロローグ
自営業である程度の成功をして、家を建てた坂本健一は、妻の死後、月6万5千円の国民年金で暮らしていた。だが50歳になっても働かない息子・誠は、父の年金に依存し続ける。老いた父は、自分の死後に息子がどうやって生きていくのかということに不安を抱え、静かな家の中で静かに生きていく――。この物語は8050問題を題材にしたフィクションです。
物語本編
75歳の坂本健一(仮名)は、夕暮れの薄暗い居間で、冷めた麦茶をすすりながら深いため息をついた。
国民年金は 月に6万5千円。光熱費と食費を払えば、手元に残るのはわずかな小銭だけだ。
だが、彼が抱える最も頭の痛い問題はお金ではなかった。
二階の部屋で、50歳の息子・誠が布団にくるまって昼夜逆転の生活を送っている。
働かず、一日中ネット動画を見て過ごす息子。その生活費はすべて父の年金に依存していた。
この息子の将来を考えると、夜も眠れなかった。
健一は若い頃、自営業である程度成功していた。
大工として働き、腕は良く、地元で評判だった。30代の頃に家を建てたとき、妻の美佐子は涙を流して喜んでくれた。
「この家があれば、ずっと、家族三人で安心して暮らしていけるわね。」
だが、その安心は長く続かなかった。
美佐子は病気で先に旅立ち、誠は就職に挫折したまま立ち直れず、50歳になっても働こうとしない。
「父さんの年金で生きていけるだろ!」
誠が、ぼそりと言った言葉が、今でも胸に刺さったままだった。
働いていたころに貯めておいた貯金は、もうすずめの涙ほどしか残っていない。
夕飯は、もやし炒めと味噌汁だけという貧乏生活。
誠は、ほとんど二階から降りてこない。呼んでも返事すらしない状態だ。
健一は、小さな溜息を漏らしながら、一人でテーブルに向かっていた。
「この子は、俺がいなくなったら、どうやって生きていくつもりなんだろう。」
考えれば考えるほど、胸の奥が痛む。
家は持ち家だが、固定資産税が払えなくなる日も近いかもしれない。
電気代、水道代、保険料……そのどれも、今の誠の力では支えきれないだろう。
ましてや、最近の物価高が生活を一層苦しくしている。
妻を亡くしてからは、健一の国民年金だけで暮らすという生活。
満足に食事を取ることさえも怪しくなってきた。
近所の人は、私たち親子が住む家を、「立派だ!」と言う。
しかし、立派なのは外観だけだ。
中では、年老いた父親の心配が募るだけの家だった。
ある夜、健一はテレビをつけ、ニュースをぼんやりと見ていた。
「老後破産」、「孤立する高齢者」
そんな言葉が目に入るたび、他人事とは思えなくなる。
そのとき、階段の上から誠の足音がした。
久しぶりに降りてきた息子は、眠たそうな目で言った。
「父さん、スマホ代を払ってくれた? 明日、ゲームのイベントがあるんだよ。」
この言葉に、胸が痛んだ。
「誠、お前、このままでいいと思ってるのか!」
誠は顔をしかめて、面倒くさそうに答えた。
「だって、仕事したって、どうせ続かないし。家もあるし、父さんの年金で暮らせりゃいいじゃん。」
その瞬間、健一の胸に、これまで抑え続けていた怒りと悲しみが爆発した。
「父さんは、もう75歳だぞ!そんなに長くは生きられないんだ!お前は、50にもなって、働かずにいる。父さんが死んだら、どうやって生活をしていくんだ!」
その言葉に、誠は、黙り込んだ。
その場をやり過ごすように、何も言わずに部屋へ戻って行ってしまった。
健一は、肩を落とした。
その日の夜中は、布団の中で眠れぬまま天井を見つめた。
妻・美佐子の面影が浮かぶ。
「あなたがいなくなったら、この子は、どう生きていけばいいのかしら。」
そんな問いを投げかけるように、妻の声が耳元で囁いた気がした。
「どうしたらいいんだ、美佐子。教えてくれ!」
老いた父は枕を濡らしながら、誰にも言えない不安を抱えたまま夜を越した。
翌朝、健一はゆっくり階段を上って息子の部屋の前に立った。
扉をノックする手が震える。
「誠、頼む。父さんのいない未来を、少しでもいいから、考えてくれ!」
返事はなかった。
どれほど待っても、言葉は返ってこなかった。
だが健一は、ほんのわずかな手応えを感じた。
もしかすると、息子の心の中のどこかに、父の言葉が届いたのかもしれない。
家の中は静まり返っている。
築四十年の家に差し込む朝日が、老いた男の頬を優しく照らした。
「どうか、この家が、誠を守ってくれますように!」
それは、父親としての最後の祈りだった。
この老人は今日も、ひと月6万5千円の年金をやりくりしながら、息子の未来を心配しつつ、静かに生きている。
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