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みなさんは、老後に備えた生活設計をしていますか?
生命保険文化センターの全国調査(2025年度速報版)では、「生活設計あり」の人が、39.5%なのに対し、「生活設計なし」という人は、51.9%、「わからない」と答えた人が、8.6%と出ています。
この物語は、必ずやってくる老後生活を全く考えず、若い頃にお金を使い続けた男が、老人になって初めて自分の過ちに気付き、それをなんとか乗り越えていく物語です。
物語の本編
坂田修二(72)は、冬の夜風にあおられながら、古びたアパートの前で震えていた。財布の中には、10円玉が4枚。年金支給日まで残り10日を、わずか40円で生きねばならなかった。月初に残っていたはずの2万円は、かつての癖が抜けず、気の緩みで使い果たしてしまった。スーパーで半額の惣菜を買ったつもりが、ついでに酒を買い、インスタント食品を買い、そんな毎日を過ごしていたら、数日後には、もうほとんど残っていなかったのだ。
「なんでこんなことになっちまったんだよ!」
彼は、ついつい愚痴をこぼした。
現役時代は華やかだった。もちろん、飲食業界に就職したころは、給料も低かった。仕事も大変で、いつか辞めてやると思っていた。しかし、いつしか飲食チェーンの店長として部下を束ねるようになると、年収600万円を越える時期もあった。当然のことながら、忙しかったが、常に誰かが彼を頼りにしていた。だから坂田は、金に糸目をつけるという発想をもっていなかった。飲み会は毎週のように開き、部下に奢り、旅行は年に数回。最新家電を買い替え、車はその都度ローンで新しいものにした。
「老後なんて、どうにでもなるだろう」と本気で思っていた。
55歳のとき、転落人生は突然やってきた。会社の業績が急降下し、坂田の店が閉鎖となった。配置転換を打診されたが、体力的にも精神的にもついていけず、彼は早期退職を選んだ。「まあ、なんとかなるさ」と豪快に笑っていたが、貯金は退職金を含めても300万円に満たなかった。
そして、あるだけ使ってしまうという癖は治らず、60歳になる頃には貯金残高はゼロ。
普通は65歳からもらう年金だが、60歳からの繰り上げ受給をしなければ生活ができなかった。
以降の彼は、月9万8千円の年金のみで暮らすことを強いられた。
65歳からの受給であれば、月14万だったが、それを60歳からの繰り上げ受給にすると30%の減額となる。
繰り上げ受給で、昭和37年4月1日以前生まれの人の減額率は、ひと月ごとに0.5%である。つまり5年の繰り上げ受給をすると30%の減額となるのだ。それ以降の生まれの人は、ひと月ごとに0.4%の減額で、60歳から受給すると24%の減額だ。
坂田は昭和28年生まれのため、30%の減額となった。
坂田の場合は、毎月4万2千円も少なくなるのだ。
年金支給は2か月に1回、偶数月の15日となっている。
そこで坂田は19万6千円を手にする。
しかし、彼が毎月9万8千円ずつ、きちんと計画通りにつかうことができるだろうか。
いや、できない。できるはずがない。
前半の月は、浪費をして、後半でそのツケが回ってくるような生活を、もう12年もしている。
ところが、それでも現実を直視できなかった。
実際は生活が苦しくてたまらない坂田だったが、老後に追い詰められた自分を認めることができなかったのだ。だから時々、現役時代のようにお金を使ってしまうということがあるのだ。そのたびに生活はさらに苦しくなり、後悔もした。
ある日、彼は部屋で倒れかけた。何も食べていなかったせいだ。冷蔵庫には、乾いたもやしと古い卵が1つ。坂田は台所に座り込みながら、ぽつりと呟いた。
「俺は、人生のどこで間違えたんだろう…」
そのとき、ドアをノックする音がした。近所の老人、村田だった。75歳の村田は、質素だが温かい生活を送っていた。家庭菜園をして、無駄遣いはせず、年金は坂田とほぼ同額にもかかわらず、穏やかな表情で暮らしている。
「坂田さん、顔色悪いよ。大丈夫かい?」
坂田は思わず、涙をこぼした。
村田は事情を聞くと、ため息をつきながらも優しく笑った。
「わしもな、若い頃は、ギャンブルと酒で家計をぶっ壊したことがあるんだよ。借金もあった。でも、負けを認めてから頑張って生活を立て直したんだ。」
坂田は、初めて同じ失敗をした人間と出会った気がした。
翌朝、村田に誘われて、地域の清掃ボランティアに参加した。坂田は最初、気が重かった。しかし、ゴミ拾いをしていると、小学生が「ありがとう、おじいさん」と笑ってくれた。その笑顔が、胸の奥に響いた。自分が誰かの役に立てることを忘れていたからだ。
活動のあと、村田は自分の畑で採れた野菜を坂田に渡した。
「遠慮するな。食わなきゃ動けないよ。」
その夜、坂田は久しぶりに栄養のある食事をした。プチトマトの鮮やかな色を見ながら、彼はふと気づいた。
「俺は金だけじゃなくて、豊かな人生まで失っていたんだな。」
現役時代の派手さは、豊な人生というものではなかった。見栄と勢いだけだった。だが、子どもから、「ありがとう」という一言を聞けただけで、自分がまだ価値のある存在なのだと知った。
翌月、坂田は決断した。シルバー人材センターに登録し、軽作業やポスティングの仕事を始めた。収入は多くないが、使わなければいい。坂田は、初めて使わないことの尊さを覚えた。
生活はまだ苦しい。しかし、年金が毎月10万円弱あれば、暮らしていける。
質素に生活をすれば、まだまだ生きていけるのだ。
彼の心は明らかに変わっていった。
ある日の夕暮れ、坂田はアパートの階段に座り、ゆっくりと沈む夕日を眺めながらこうつぶやいた。
「俺が間違えたのは、お金を使ったことじゃない。未来を考えずに使い続けたことなんだ。老後は必ずやってくるのに、若い頃はそれが見えなかった。まるで永遠に働けるみたいに錯覚していたよ。」
そして、深く息を吸って続けた。
「でも、まだ人生は終わっちゃいない。今からだってできることはある。村田さんがそうだったように、俺だってやり直せるはずだ。」
坂田の物語は、浪費のツケを払い続けた人生の中で、ようやく見つけ出した教訓を静かに語っている。
その教訓とは――
**「老後は、若い頃の習慣が形を変えて襲ってくる」**ということ。
そして、
**「どんな失敗も、認めた瞬間から再スタートできる」**ということだった。
坂田の本当に豊かな人生がこれから始まるのである。
#浪費 #年金 #繰り上げ受給 #老後



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